「エグータムプレミアム」
- Takemi Kaneko

- 7月31日
- 読了時間: 2分
「エグータムプレミアム」物語
〈 作 ジャムヘアーサロン 〉
✨誰にも見えない、わたしの奇跡
久美子(49)(仮名)は、朝5時には起き出し、家族の朝食とお弁当を用意する。
夫は無口で、感謝など言わない。
大学生の娘はスマホを見たまま、小さな声で「行ってきます」と出ていく。
昼はパート、帰ればまた夕飯の支度。
そんな毎日に追われるある朝、ふと台所の窓に映る自分の顔に目をやった。
疲れきった顔。
そして、まつげまでもが、短く、色を失っていた。
「ああ、女って、こうやって少しずつ終わっていくんだ…」
──そんなある日。
行きつけの美容室《ジャム》で、ふと目に入った
ひときわ目を引く、小さな箱とPOP。
『エグータムプレミアム』
― 夜に、ひと塗り
まつげの密度も、人生の密度も、もう一度 ―
その言葉に、なぜか、胸がじんとした。
会計のとき、「ついでにコレも」と手に取る。
それは、久しぶりに“自分のため”に買ったものだった。
その夜、誰にも見られないように、洗面所の鏡に向かって
そっとまつげの生え際に、細筆をすべらせる。
それは、久美子にとっての「わたしだけの5分」になった。
毎晩、塗るたびに
胸の奥が、少しずつ満たされていくようだった。
1ヶ月が過ぎた頃、ふと娘が言った。
「ママ、なんか…目元きれい。アイライン変えた?
今の方が…なんかいいね。」
「そーお? 嬉しいな。」
久美子は照れくさそうに笑い、娘もつられて笑った。
きっと誰にも気づかれないと思っていた。
でも、本当は——気づいてほしかった。
私だって、「わたし」を、あきらめない。
まつげは、少しずつ濃く
ハリをまとって、しなやかに伸びていく。
誰にも見えないところで、自分をあきらめなかった奇跡。
そう。しなやかに伸びていたのは——
まつげだけじゃなかった。





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