ヘナ2 (ヘナカラー2)
- Takemi Kaneko

- 7月31日
- 読了時間: 2分
「ふたりの距離、ひとさじ分」
(ヘナ物語2 作 ジャムヘアーサロン)
「ただいま」
つぶやくような、小さくて元気のない声。
──それは、自分でも気づいてる。
玄関の靴は、いつもきれいに揃ってる。
食卓には、いつもの手料理と味噌汁の湯気。
テレビではニュースが小さく流れてる。
うちの嫁は、ようしゃべる。
晩ごはん作りながら、テレビ観ながら、
俺が返事せんでも、勝手に喋ってる。
だからつい、聴き流す癖がついた。
その夜。寝る前に、嫁がぽつりとこぼした。
「今日な、いつもの美容室で──
はじめてヘナってやつしてもろたんよ。
……でもなんか、全然気づいてくれへんのやなぁって。」
嫁が美容室に行ってきたことくらい、見りゃわかる。
けど、別に言わない。いつものことやし。
ただ、その時。
背中を向けて、冗談めかして言った声が、
なんかちょっと、寂しそうで。
なんでやろ──胸が、きゅっとなった。
次の朝。
コーヒーを淹れたのは、俺の方やった。
嫁の整えられた髪が、耳にかけられていて
朝日を浴びて、ふわっと艶やかやった。
……そやな。
ちゃんと見たってなかったな。
「髪、や。なんか、ずいぶん若く見える……っていうか。
……あれやな、ジャムっていう美容室、上手いんやな。」
振り返った嫁は、びっくりした顔したあと、
そっと──にっこり、笑った。
ほんの一言が
朝のコーヒーを、ちょっと特別な味に変えた





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